1. 生体エネルギー論:有酸素と無酸素の真実
「有酸素運動」「無酸素運動」という言葉は一般的に使われますが、運動生理学的には3つのエネルギー供給機構の貢献度合いによって分類されます。 人間が活動するためのエネルギー通貨は**ATP(アデノシン三リン酸)**です。このATPをいかにして再合成するか、そのプロセスの違いが運動強度と持続時間を決定します。
A. ホスファゲン機構 (ATP-CP系)
最も素早く、爆発的なエネルギーを供給します。筋肉中に貯蔵されているクレアチンリン酸(CP)を使用してATPを再合成します。 酸素を必要としません(無酸素)。
- 強度: 非常に高い (90-100% 最大パワー)
- 持続時間: 0〜6秒(最大でも10秒程度)
- 例: 100m走のスタートダッシュ、1RMの重量挙げ、垂直跳び。
B. 解糖系機構 (ラクトアシッド系)
血中のグルコースや筋グリコーゲンを分解してATPを生成します。この過程で乳酸(Lactate)が生成されます。 酸素供給が追いつかないレベルの高強度運動で使用されます。
- 強度: 高い (75-90% 最大パワー)
- 持続時間: 30秒〜2分
- 例: 400m走、筋力トレーニング(一般的な10回セット)。
- 生化学的メモ: かつて「乳酸は疲労物質」と言われましたが、現在は「乳酸はエネルギー源としても再利用される」ことが明らかになっています。疲労の主因は水素イオン($H^+$)の蓄積によるpHの低下です。
C. 酸化機構 (有酸素系)
ミトコンドリア内で、炭水化物や脂肪(および少量のタンパク質)を酸素を使って分解し、大量のATPを生成します。 エネルギー生成速度は遅いですが、供給量はほぼ無限です。
- 強度: 低〜中 (最大パワーの75%以下)
- 持続時間: 3分以上〜数時間
- 例: ジョギング、マラソン、安静時。
| 機構 | 主なエネルギー源 | パワー出力 | 主な種目例 |
|---|---|---|---|
| ホスファゲン系 | クレアチンリン酸 | 最高 | パワーリフティング |
| 解糖系 | グリコーゲン | 高 | ボディビルディング |
| 酸化系 | 脂肪・糖 | 低 | マラソン |
2. HIIT (High-Intensity Interval Training)
HIITは「高強度インターバルトレーニング」の略称です。不完全回復を挟みながら高強度の運動を繰り返すことで、短時間で心肺機能と筋力の向上、そして脂肪燃焼を狙います。
EPOC(運動後過剰酸素消費量)の効果
HIITの最大のメリットは、運動中だけでなく、運動後もカロリー消費が続く「アフターバーン効果(EPOC)」にあります。 激しい運動によって乱れた生体内恒常性(ホメオスタシス)を回復させるため、体は酸素を大量に消費し続け、その過程で脂肪が燃焼されます。 研究によると、この効果は運動後24時間〜最大48時間続くと示唆されています。
代表的プロトコル:タバタ式 (Tabata Protocol)
立命館大学の田畑泉教授らによって研究されたプロトコルです。元々はスピードスケート選手の強化のために開発されました。
- 構成: 20秒の全力運動 + 10秒の休息 × 8セット
- 合計時間: わずか4分
- 強度要件: 最大酸素摂取量(VO2max)の170%強度。つまり「地獄のような全力」で行う必要があります。軽い運動で行ってもタバタ本来の効果(有酸素・無酸素両方の能力向上)は得られません。
3. Modern Fitness Trends
フィットネス業界は常に進化しています。現在、世界的に注目されているトレンドを解説します。
A. ファンクショナルトレーニング (Functional Training)
「筋肉(Muscle)」単体ではなく「動作(Movement)」を鍛えるという考え方です。 日常生活やスポーツ競技におけるパフォーマンス向上を目的とし、多関節運動(コンパウンド種目)や、不安定な場(バランスボールなど)でのトレーニングを重視します。 「Squat(しゃがむ)」「Lunge(踏み込む)」「Push(押す)」「Pull(引く)」「Hinge(股関節の屈曲)」「Rotation(回旋)」「Gait(歩行)」の7大動作パターンを基本とします。
B. クロスフィット (CrossFit)
「歩く・走る・起き上がる・拾う・持ち上げる・押す・引く・跳ぶ」といった日常動作を中心に、高強度のトレーニングをあらゆるとき間領域・モードで行う競技です。 コミュニティ要素が強く、WOD(Workout of the Day)と呼ばれる日替わりメニューをグループで行うのが特徴です。
C. ピラティス (Pilates)
第一次世界大戦中にジョセフ・ピラティス氏が負傷兵のリハビリのために考案した「コントロロジー(Contrology)」が起源です。 インナーマッスル(特にコア)の強化、脊柱の柔軟性、骨盤の安定性を重視します。 ウェイトトレーニングとの相性も良く、怪我の予防や姿勢改善のためにトップアスリートも導入しています。